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ムーミンとプーさん

フィンランドを旅行して、ムーミンのすごさをまざまざと見せつけられた。空港にもムーミンショップ、お土産やさんには必ずムーミングッズが並び、街のいたるところにムーミンが溢れている。ムーミンは今やフィンランドの一大産業だ。

ムーミンに匹敵するイギリスの童話のキャラクターといえば、たぶんくまのプーさんが筆頭に上がるだろう。



私は今、かつてプーさんが仲間とともに暮らしていた100エーカーの森の近くに住んでいる。イギリス南東部の、穏やかな丘陵地帯の森の中。のどかなファームが広がり、裕福な人々のファームハウスが並び、牛や馬や羊がのんびりと草を食む。

春にはブルーベルや黄色いバターカップ、真っ白なデイジーが一面に咲き、野ウサギがはねまわる。夏にはラズベリーやブラックベリーがそこかしこに実をつけ、秋にはリンゴやどんぐりがどっさりなってときどき上から降ってくる。冬は寒くて天気の悪い日が多いけど、一日中外にいても凍え死んだりはしない。危険な動物も、猛毒を持った植物もいない。



こんな穏やかな森は、クマやブタやカンガルーのぬいぐるみたちが、自分で家を建てたり、どんぐりを拾ったり、川に棒を投げて遊んだりするのにちょうどいい。プーさんやピグレットたちは、たぶんフィンランドのような極寒の地では生き抜くことはできないだろう。

「ムーミンパパ海へ行く」の表紙イラスト。ムーミンミュージアムで買ったポストカード

やっぱりフィンランドでは必然的に、ぬいぐるみではなく、妖精か妖怪が童話の主人公になるんだと思う。そう、ムーミンはカバじゃなく、フィンランドの厳しい自然に生きる妖精(または妖怪)。日本で言えば、ゲゲゲの鬼太郎とその仲間たちだ(ちょっと違う・・・?)。

ムーミンシリーズ第一作「小さなトロールと大きな洪水」の表紙イラスト。ムーミンミュージアムで買ったポストカード

ムーミンのお話に出てくるキャラクターたちは、人間離れした容姿だけど、めちゃくちゃ人間臭い。しかも、シャイを通り越して極端な人見知りや、孤独を愛する偏屈者や、ネガティブな皮肉屋や、夢見がちな現実逃避型など、社会不適合者のオンパレード。主人公のムーミンですら、そこまでの変わり者ではないけど、おっとりしてて純朴で、他の物語の主人公みたいに元気で活発で冒険好きな男の子っていうわけでもない。

Moomin Museumで買ったポストカード

フィンランドの真っ白に凍てつく森や真っ黒に荒れ狂う海には、メランコリックな引きこもりは似合うけど、もしラテン系の明るいノリの人がいたら、あまりに厳しい気候で精神的におかしくなってしまったとしか思われないだろう。やっぱり気候や風土って、性格形成に尋常じゃない影響を与えてることがわかる。

Moomin Museumで買ったポストカード

平穏無事な毎日に退屈し、男のロマンを実現しに、島で灯台守になると言い出すムーミンパパ。自分の夢ばかり追って無鉄砲に家族を振り回すムーミンパパに、ムーミンママは「おかしいわ。くらしがうまくいきすぎるからといって、悲しんだり、ましてはらをたてるなんて、おかしいわ」と疑問を感じつつ、「だけど、そうなんだからしかたないわ。かんじんなことはただひとつ、生活をあたらしくはじめることね」とあっさり受け入れ、パパについていく。何事にも動じず、どっしり構えているようだけど、知り合いもいない荒れ果てた島での生活に、故郷のムーミン谷を思い出して一人佇むママがいじらしい・・・。

Moomin Museumで買ったポストカード

ムーミン谷の家が恋しくなったムーミンママは、新居の灯台の壁にムーミン谷の絵を描く。妖精(妖怪?)だって辛いことも悲しいこともある。新しい環境にどうしても馴染めないこともある。故郷が恋しくなる時もある。そんなとき、彼女はただ我慢するのではなく、無理やり馴染もうとするのでもなく、自分のまわりを自分の好きなもので囲み、安心と幸せを感じる自分の世界を創り上げるのだ。

それは小さな変化やちょっとしたストレスには効くかもしれない。でも、こんなに大きな環境の変化にはやはり耐えられず、ムーミンママは自分の描いた絵の世界に隠れてしまう。優等生で物分かりのいい子が、あることをきっかけに引きこもって自分の世界に閉じこもってしまうのに似ている。ムーミンパパほど酷くなくても、まわりは知らず知らずのうちに同じような仕打ちを与えているのかもしれない。

Moomin Museumで買ったポストカード

いちばん強烈なキャラクターは、なんといってもモランだろう。モランはいつでも一人ぼっち。吐く息は氷になり、歩いた跡は地面が凍って草木は枯れ、すわった場所にはもう二度と植物が生えることはない。モランは危害を与えるわけでも大声を出すわけでもないけれど、突然目の前に現れてみんなを怖がらせ、ただそこにいるだけで忌み嫌われる。その絶望的な深い孤独に触れて、ムーミンは怯えながらも心を痛める。

プーのお話では、イーヨーがいちばんモランに近いかな? でもモランほど強烈ではないし、地面を凍らせたり草木を枯らせたりする力もない。モランみたいに極端に嫌われてるわけでもない。本人が勝手に拗ねてるだけで、まわりは気にも止めてない。でも、イーヨーのおかげで、まわりのみんなは優しい気持ちを持てるようになったんじゃないかとも思う。プーやピグレットは憂鬱な彼をハッピーにしようと心を砕き、落ち込む彼のために自分の欲望を抑えて贈り物をあげたり、本心を隠して慰めたりする。でもそれも、みんながイーヨーを仲間だと認めて受け入れているからだよね。モランのように明らかに異形の姿ではないし、危害を与えるわけでもない。プーさんと仲間たちはみんな違う特徴を持っているけど、理解不能な違いではない。

プーさんたちは100エーカーの森から出ることはない。安全な世界の中で物語は展開していく。そしてクリストファー・ロビンが、なかよしの仲間たちだけの森の中の世界を出ていかなければならなくなった時、プーさんの物語は終わりを迎える。

安全な100エーカーの森を出たクリストファー・ロビンは、未知の生き物が潜むムーミン谷に足を踏み込むのかもしれない。敵意や悪意や自然の脅威も垣間見ることになるだろう。新しい体験や恐ろしい体験を経て、好奇心や創造力や家族愛や友情を育てていくのだろう。プーさんとムーミンは、私たち誰もが通る道なのだ。だからこそ、時代も国境も超えて、人々に愛されてきたのかもしれない。


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