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That’s the city I live in

住み慣れたイギリスを去ると決め、友人と話をした。

在住20年を経てようやくロンドンが好きになってきたという彼女と、私は真逆だった。

地方に住んだ最初の3年ほどは鬱に近い状態になり、日本に帰りたいと切実に願った時期もあったが、ロンドンに移ってからは毎日楽しく過ごし、この街がとても気に入っていた。

だが、ロンドンオリンピックの後1〜2年をピークに、徐々に刺激が減っていった。

代わりに人の多さや物価の高さや交通渋滞や鉄道の混雑さに、だんだん嫌気がさすようになった。

とくにブリクストンに引っ越してからは、道行く人々の思いやりのなさ、マナーの悪さ、不機嫌で雑多なエネルギーに、疲労困憊で息も絶え絶えの状態だった。

それが原因かどうかはわからないが、ガンにもなった。

合わないとわかっているサラリーマン生活に、起きている時間の大半を費やしながら、私はこんな生活をするためにこの国に来たんだったっけ? と考えるようになった。

ロンドンはもうエキサイティングで楽しくてワクワクする場所ではなくなった。

いつこの国を出るか、日本に一時帰国するたびに真剣に考えていた。

そして、ようやく決意した。





サセックスの自宅に戻る電車の中、私が座っていた4人がけのシートに、若い女の子3人組が乗ってきた。

ティーンエイジャーか、大学を卒業するくらいの、キラキラした年頃。

一人はイギリス人、あとの二人はドイツあたりから来ているようだ。

車窓に映るバタシーの街並みを見ながら、イギリス人らしい女の子が言った。


「私はやっぱりロンドンが好き!

他の街から帰って来てこの灰色と煉瓦色で覆われた景色を見るたびに、やっぱりここが私の住む街なんだ! って思うの。

世界の大きさから比べたら、そんなにいろんな都市に行ったことあるわけじゃないけどね」


すると、ドイツ人らしき女の子が言った。


「この灰色と煉瓦色がこの街の特徴なのよ。

訪れるツーリストたちは、この色を見て『とってもイングリッシュだわ! 素敵!』って思うのよ」


「そうね。ここはやっぱり私の住む街だわ。ほかの街は考えられない」


「私は東京とかいいなー。チェリーブラッサムの時期に行ってみたい! あー、そして寿司が食べたい!」


「桜の時期は高いわよ。観光客も多いし」


(3人の会話をこっそり聞いていた私は、

「東京に興味を持ってくれてありがとう! 私は日本から来たのよ」

と割り込もうかと思ったが、やめておいた…)


その後彼女たちの話題は就職のことに移り、次の駅で電車を降りていった。


イギリス人にとっても、ここは「灰色と煉瓦色」の街なんだなあ…

それでも、みんなこの街を愛しているんだなあ。

ここを「ホーム」だと感じているんだなあ。



ここには、私の求める「色」がない。

それにはとうに気づいていた。

夏の2ヶ月ほどを除いては、晴れた日でも空はぼんやり白っぽく、海はいつもにごった灰色。



「灰色と煉瓦色の街」といっても、夏のロンドンの公園は木々や花々が豊かで本当に美しい。

東京だって、行くたびに新しい刺激に感動するし、冬のクリスプな青い空にも癒される。

生まれ育った千葉には青く広がる海があり、いつ訪れても安心する。


でも、東京もロンドンも、故郷の千葉でさえも、どうしても「ホーム」だとは思えなかった。

いつもいつも「ホーム」を探していた。

私の求める「色」がある場所を。

探しながらも、実は、もう答えがわかっているようにも感じていた。